What are Cosmic Rays宇宙線を知る
次の2枚の絵を見比べてください。1枚は科学者たちの目線で見た世界を表現しており、このように日常のあらゆる物事においても科学者達は様々な理論を打ち立て、科学的に分析しています。
このイラストで右上に描写されているものが宇宙線です。以下では宇宙線の発見からどのようにして宇宙線を観測しているかについてご紹介します。
宇宙線の発見
宇宙に存在する高エネルギーの放射線は、1912年V. F. Hessによって発見されました。それまで地球上に測定された放射線は地面から来ると考えられていました。
Hessは気球を使って放射線量を高度ごとに測定し、地面から離れるにつれて放射線量がどれくらい減少するかを測定しようとしました。ところが驚くことに測定結果は地面から離れるにつれて放射線量が増加する結果となり、この結果から放射線は地面からだけでなく宇宙からも到来していることが明らかになりました。
これが宇宙線の発見であり、Hessはこの業績により1936年にノーベル物理学賞を受賞しています。
発見から100年以上が経過
2012年8月7日、宇宙線発見から100年を記念してHessの気球が測定を終えて地上に降り立った場所に記念碑が建てられました。
この100年以上の間、宇宙線を観測する基礎研究が進められ、人類の加速限界をはるかに凌駕するエネルギー(10の20乗電子ボルト)の宇宙線『極高エネルギー宇宙線』が到来していることが明らかになってきました。
しかし、このような巨視的なエネルギーを持つ宇宙線がどこでどのように加速し、宇宙空間を伝播し、そして地球に到来するかは分かっていません。今、我々の研究の目的はこの宇宙でもっとも高いエネルギーを持つ宇宙線の起源を解明することです。
宇宙線のエネルギースペクトル
下図は2015年での宇宙線国際会議で報告されたエネルギースペクトル[宇宙線の到来頻度/エネルギー/面積/立体角/時間]です。
簡単にいうと、あるエネルギーの宇宙線がどの程度定期的に地球上に到来しているかを示しています。エネルギーが増加するにつれ急激に減少するため、縦軸にエネルギーの2.5乗をかけ細部構造を見やすくしています。
幅広いエネルギーで測定されており途中に折れ曲がった構造を持ち、足の構造に似ていることから最初の折れ曲がりの部分をKnee(膝)、つぎの折れ曲がりをAnkle(足首)と呼びます。
具体的な宇宙線の到来頻度を述べると、手のひらを広げると1秒間に1個の宇宙線が降り注いでおり、最初のKneeの折れ曲がりである10の15乗電子ボルトのエネルギーの宇宙線は1平方メートルあたりに年間1粒子と頻度が少なくなります。さらに高いエネルギーに向かい、Ankleの10の18.5乗電子ボルトでは年間1平方キロメートルあたりに1粒子となり、極高エネルギー宇宙線である10の20乗電子ボルトは年間100平方キロメートルあたりにたった1粒子しか到来しません。
どうやって観測するか?
このような巨視的なエネルギーを持つ宇宙線は大気分子との相互作用を通して大量の低エネルギーの二次宇宙線として地表に到来し、極高エネルギー宇宙線である10の20乗電子ボルトの宇宙線が地表に到来するときには最大100億個の粒子群となってほぼ同時に地上に到来します。この現象を空気シャワーと呼び、この空気シャワーを地上で捉えることで極高エネルギー宇宙線を観測します。
またこれらの宇宙線はほぼ光速度(秒速30万キロメートル)なため、この信号を非常に高速で捉える必要があり2種類の観測方法が確立されています。
ひとつが地上に等間隔で並べられた宇宙線検出器で、等間隔ごとに到来する宇宙線を測定する地表粒子検出器アレイです。もうひとつが、大気中での空気シャワーからの蛍光発光を撮像する大気蛍光望遠鏡です。
入射した宇宙線についての情報を得るときに宇宙線の情報を特徴づける値として以下の2つの値があります。
- 縦方向発達(longitudinal development):二次宇宙線が大気中でどのように粒子数が増加し、減少したか
- 横方向密度分布 (lateral density distribution) : 二次宇宙線が横方向にどのような粒子数分布で広がっているか
地表粒子検出器アレイは地表での横方向密度分布を測定し、大気蛍光望遠鏡は縦方向発達を撮像します。
大気蛍光望遠鏡
大気蛍光望遠鏡は、空気シャワーが大気中で発する紫外線蛍光発光を鏡またはレンズを用いて集光し、その焦点面に多数並べて配置した光センサー(光電子増倍管)によって測定する手法です。
この大気蛍光望遠鏡による宇宙線観測は1958年に乗鞍シンポジウムにて小田氏・菅氏によって提唱され、1969年堂平観測所で棚橋氏らによって大気蛍光望遠鏡による初観測が達成されました。
この大気蛍光望遠鏡はフレネルレンズと24本の光電子増倍管によって構成されており、候補事象の中からNo12の信号の時間幅が長く光量が一定であることから大気蛍光による宇宙線初観測事象として記録されています。
近年、B. Dawsonらによる追解析により大気蛍光発光が主な5×10の18乗電子ボルトの宇宙線と矛盾しないことが確かめられています (arXiv:1112.5686)。
下の図は、テレスコープアレイ大気蛍光望遠鏡で撮像された宇宙線候補事象です。2地点の大気蛍光望遠鏡で同時に観測された3×10の19乗電子ボルトという非常にエネルギーを持ちます。大気蛍光望遠鏡は1秒間に1千万回の撮像速度で、光速で動く空気シャワーを捉えます。そのため非常にゆっくりとした信号の移動となって測定データに現れます。
地表粒子検出器アレイ
1.5kmごとに検出器を配置し、ほぼ同時に地表に到達する二次粒子を測定。各検出器で観測された信号の時間差から到来方向を求め、信号の粒子数密度から宇宙線のエネルギーを推定します。これによって1000km2という広大な有効検出面積を達成します。
これらの観測方法は現在稼働中の極高エネルギー宇宙線観測実験におけるテレスコープアレイ実験・ピエールオージェ観測所においても標準的な手法として使用されています。
次世代の天文学--極高エネルギー宇宙線天文学--
極高エネルギー宇宙線は、その莫大な運動エネルギーを持つために銀河磁場で曲げられずに地球まで到来されていると考えられています。そうすると、天体起源であった場合には既知の天体との相関が期待され、宇宙のどこで宇宙線が生成されているのかを明らかにすることができます。
北半球を観測しているテレスコープアレイ実験、南半球を観測しているピエールオージェ観測所において、現在までに観測された極高エネルギー宇宙線を下図に示します。
北半球にホットスポット、南半球にウォームスポットと呼ばれる宇宙線が集中している場所が見られます。また超銀河面との緩い相関があるようにも見えます。しかし、現在までの観測では決定的な証拠と呼べる水準まで達しておらず、さらなる追観測で確かめる必要があります。
では引き続き、宇宙極限事象を解明する新たな目として次世代の天文学「極高エネルギー宇宙線天文学」に挑戦している我々のプロジェクトをご覧ください。